きみの視る幻想(ゆめ)
雨とは違い暖かな滴が次々と頬を伝わって落ちてゆく。

俺はそれを潰さないようにしながら胸に抱きしめ泣き続けた。



その時。



ぐらりと地面が揺れた。


はっとして顔を上げる。

空には雨の日用の黒い雲が広がっていた。

そしてまた地面が揺れる。

視点が微妙にずれていた。

けれどもそれは錯覚で、本当にずれたのは地面の方だということにすぐ気づいた。

気づいた瞬間、もの凄い地響きがした。

立つことなどできないほどの揺れ。

俺は登ってきた斜面を転がり落ちた。

ぬかるんでいたせいか、なにかにひっかかることもなく、どんどん落ちてゆく。

なにかにつかまらなければと思った矢先、背中にひどい衝撃を受けた。

木にぶつかったらしい。

頭がくらくらする。

遠くから悲鳴が聞こえていた。

地響きは続いている。
 


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