きみの視る幻想(ゆめ)
むっとはするが、話を聞いてもらいたかったので、我慢した。

割り箸をぱきりと割る。


「食う前に話せ」

「うどんが
 のびるじゃないか」

「うどんより
 大切な話じゃねぇなら
 聞いてやらねぇぞ」


恨めしげに見ても、サクラは視線をアオに向けようともせず、

自分はカレーライスを口にはこんでいた。

諦めてアオは箸を置く。


「トノが死んだんだ」

「トノ? 
 お前、誰かに
 仕えてたのか?」

「からかうなよ。
 犬の名前だ」

「犬?」

「そう、犬」


サクラが食べるのをやめ、アオを見た。

それだけでアオは泣きたくなる。

目をぱちぱちさせてなんとか堪えたが、

ともすると涙がこぼれてしまいそうだった。
 

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