きみの視る幻想(ゆめ)
平和だった頃とは比べものにもならない名ばかりの洗面所にゆく。

割れた鏡に歪んだ俺が映っていた。

今年で三十五。

あれからもう十四年も経っているのに、

当時とさほど変わらない容貌にげんなりする。

丸い奥まった目に、濃くて短めの眉、少し団子ぎみの鼻。

それになんだか妙にガキくさい気のする唇。

髭を伸ばしてみたこともあるが、どうにも似合わないので

ここ数年、よけいな足掻きはやめてきちんと剃ることにしていた。

変わったのは体つきくらいのものだ。

生き残るために急いで造られた体だった。

なんでも喰って造ったというほうがいいか。

必要に迫られ、できることもできないと思えることもしながら、

俺は体を造っていったんだ。

生への執着というよりはむしろ死に対する拒否がそうさせたのである。

無駄な脂肪が落ちて筋肉だけが骨の上にのっている、

服を着れば貧弱にも見える体。

当然、体重は軽かったが栄養失調にはなっていない。
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