きみの視る幻想(ゆめ)
いつもは埃っぽい空気がお天道さまを遮っていて、

陽の光が下界までおりてはこない。

だから、今日はいわゆる洗濯日和というやつで、

爽快な気分になってもおかしくないと思うんだが、

こいつの機嫌は良くないようだ。


「俺は根が淋しがりなんだ。
 少しは愛想をしようって
気になれよ」


言いながら、コップの水を鉢にあける。

植物が人語を解すという話を聞いたのはいつだっただろう。

思い出せない。

こんな生活をするようになってから

いろんなことを思い出せなくなっている。

あの日、最後に話をしたヤツがどんな奴だったか、とか。

どんな食い物が好きだったか、とか。

一人で生きるぶんには必要のない思い出。

俺は思い出を捨て、幻想をひきずっていた。

ふっと視界が揺れる。

いつもの、それ。


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