キス屋
「なんで?俺、すごい
良い名前だ、って思うけど!!」
顔を近づけて、リョウスケさんは言った。
不覚にも、どきんとしてしまう。
「え、なんでですか?」
「だって、「えあ」だよ。
なにが嫌なの?」
彼の言う事は全く
筋が通ってなくて面白かった。
「...だって、『空気』って
言われるんだもの。
空気は英語で『エアー』でしょ?
だから...それでよく、からかわれたから」
小さい子はなんでも
からかいのネタにする。
大抵の人は、からかった事も
からかわれた事も
すぐ忘れちゃう。
でもあたしの場合、違う。
名前なんて一生背負わなきゃ
いけないものだから、
それを馬鹿にされたら
ふかく傷ついてしまう。
はあ、とため息をつくと
リョウスケさんは
おきらくそうな顔で言った。
「空気だから、いいんじゃん?」
「え..?」