キス屋

「なんで?俺、すごい
 良い名前だ、って思うけど!!」


顔を近づけて、リョウスケさんは言った。
不覚にも、どきんとしてしまう。


「え、なんでですか?」


「だって、「えあ」だよ。
 なにが嫌なの?」


彼の言う事は全く
筋が通ってなくて面白かった。


「...だって、『空気』って
 言われるんだもの。
 空気は英語で『エアー』でしょ?
 だから...それでよく、からかわれたから」



小さい子はなんでも
からかいのネタにする。


大抵の人は、からかった事も
からかわれた事も
すぐ忘れちゃう。

でもあたしの場合、違う。


名前なんて一生背負わなきゃ
いけないものだから、
それを馬鹿にされたら
ふかく傷ついてしまう。



はあ、とため息をつくと
リョウスケさんは
おきらくそうな顔で言った。



「空気だから、いいんじゃん?」


「え..?」
< 23 / 35 >

この作品をシェア

pagetop