アルタイル*キミと見上げた空【完】
この人……っ。
ほとんど記憶がないのに、この顔と声は身ぶるいとともに記憶からはい出してくる。
「あ~、やっぱり堂島さんだ~~。大人っぽくなってますますかわいくなったね」
顔を近づけるその男の匂いはきついたばこのものだった。
この人……、私を襲って修ちゃんをケガさせた……あの男だ。
あのころとは見かけが変わってるけど、
忘れたりはできない。
恐怖の中から、それでも怒りがこみあげてきて、キッとにらむと、彼はおどけたように笑ってははは、と上を向いた。
「悪い、って思ってるよ~。あの後彼氏バスケやめたんだってね。ってどっちの彼氏だったっけ?」
は!?
「いいよね、かわいいって。かっこいい彼氏二人もいてさ」
「何、言ってんの?」
もう、恐怖なんかより、完全に怒りが私を支配していて。
ぐぐっともりあがった感情が口から汚い罵倒の言葉で飛び出そうとしている。
「おっと。今日はそんなこと言うつもりじゃなかったんだ。本当に今日会ったのは偶然。まぁ、俺になんか会いたくないと思うけどさ。忘れられてない、っていうのは意外だったけどね……今日はここまでにしとくよ。別にあんたに恨みがあるわけじゃないし。ってもう会うことはないと思うけど」
そういった彼の眼が少しあやしく光ったような気がして、何も言えなくなってしまった。
何?この人。
やっぱり気持ち悪い。
「じゃぁね。栗原修也さんによろしく言っておいてよ」
「ちょっと…」
彼はにやっと笑ってから手をひらひらと挙げて人がいない方向にすっと消えた。