おつかれマイハニー
あの、全校生徒が集まっている中で、お姫様抱っこ。
自分でも顔が赤くなるのがわかった。
「あ、ありえない……」
両手で顔を覆う。
「感謝しろよ。あのまま倒れてたら頭からいってたぞ」
それは、感謝する。でも……
「何で矢澤君が運ぶの?何で先生じゃないの?」
普通は先生が担架とかに乗せて運ぶはず。
自己紹介の時の矢澤君の一言。
『彼氏いんの?』
そんなことがあった後にお姫様抱っこだなんて。
クラスメイトがまた変な目で見てくるに違いない。
下手したら他のクラスにも噂が広がるかも。
私の脳内では、最悪のパターンがシミュレーションされていた。
クラスの三軍的位置で、ひっそりと学校生活を送りたいのに。
力のある(生徒を運べる)先生が他の生徒を保健室に運ぶために体育館にいなかったこと。
軽々とお姫様抱っこする矢澤君を見て担任の三木先生がそのまま保健室に運べと言ったこと。
矢澤君が説明している間、私は明日からの学校生活に不安を感じていた。
「俺、こう見えて力には自信あんだ」
誇らしげに言う矢澤君。
「とりあえず、ありがと……」
それでも人として、お礼は言わなければと思った。