おつかれマイハニー
「どういたしまして」
矢澤君は笑ってそう言うと「ところでさ」と繋いだ。
「名前なんて読むんだ?」
……え。
「さっき自己紹介で言ったよ?」
むしろ名前しか言わなかったし。
「悪い。聞いてなかった」
「え」
なんか、合点がいかない。
「あ、あんなこと聞いておいて、私の自己紹介は聞いてなかったの?」
「あんなこと?」
待って待って。
この人、何か変だ。
「彼氏、いるのって……」
「ああ、それか」
……やりにくい。
ただでさえ男子と話すのが苦手なのに、矢澤君はペースがおかしいというか、話が通じないというか、余計ダメだ。
「で、彼氏いんの?」
「……名前は」
「あ、それも」
「堀川ゆな。彼氏はいません」
私は真陽に一刻も早く戻ってきてほしかった。