ちょっと待って、流れ星
蝋燭に照らされた声の主は黒髪を下の方で束ね、若草色の着物を着ていた。その着物はまるで平安時代のものようである。

だいたい二十代半ばと思われる彼は切れ長の瞳を細め、口元を緩ませていた。


「こんな夜中に、女の子一人でいちゃあ危ないじゃあないかい。よかったら屋敷に入りなさあい」

変に間延びした喋り方をする彼は、ニコニコ笑いながら手招きをしている。おいでよう、と言っては手をひらひらさせているが、わたしは動けなかった。


「ああ分かった!きみは恥ずかしがり屋さんなんだねえ。それなら早く言ってよう」

はっはっは、と笑い声をあげながら、彼は近付いてきた。

その歩きはゆったりと歩いているように見えたが、するりと一瞬で彼は隣にいる程で、わたしを驚かせた。

目をぱちくりさせているわたしをよそに彼はやわらかい表情のままで、滑るようにわたしの肩に手を乗せ、屋敷の方へと促している。
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