ちょっと待って、流れ星
「月子ちゃんを今すぐ送り返すのが、一番の得策かもしれないなあ。でも、栄介さんのときも、穴が見つからなくてすぐにはできなかったんだよう。そうしているうちに彼は愛する人を見つけてしまい、帰りたがらなくなったからね。それに今はあの時と違い、朔が氷雨の力を補っているはずだ。氷雨が自分の母より力が強いのも難点たねえ」

清和さんは顎に手を添え、考え込んでしまった。部屋の角に置かれた蝋燭がゆらゆらと頼りなさげに揺れている。

わたしは、氷雨という人に命を狙われているらしい。でもここにはかつてお父さんも来ていて、お母さんがいる世界。

わたしは暫くここにいたかった。お母さんに会いたい。今までのことを話したい。

「まずは帝や大臣たちに話さなければならないだろうねえ。それから藤様にも。でも今晩はもう遅い。茜、部屋を用意して。清彦はわたしと一緒に結界を屋敷の回りに張るんだ」

そう言ってニコリと笑ってみせた清彦さんはどことなく疲れていた。

今すぐにお母さんに会いたい!

写真のとき同様、わたしは喉元まで出かかった言葉を口にすることはできなかった。


「月子さん、お部屋まで案内しますね。こちらです。」

襖の前で柔らかく笑う茜さんについて部屋を出た。

出たそこの廊下は縁側になっていて、幅がとても広い。月が柔らかく光を放っていたが、わたしは顔をあげられなかった。

清和さんは藤様にもわたしのことを言う、と言ってくれた。そうしたら、明日にはお母さんに会えるかもしれない。

でも、会ったことのない娘に気付いてくれるのだろうか。

気を遣ってか、茜さんは部屋までの長い廊下を歩く間、何も話し掛けてはこなかった。
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