ちょっと待って、流れ星
***

「あの子は、どうしていたの?」


母上の声が響いた。

黒ばかりで、冷たく静かなこの部屋をさらに黒へと導くその声。ぼくは身震いをしてしまう。

なに、いつものことだ。母上はいつだって、冷酷。

悪と正義があるならば、彼女は悪しか知らない。


ただ、愛は知っている。だから、いつかぼくを、と希望を持てる。

一緒にいれば、愛をもらえる、と。


「あの子はこの世界を手に入れる重要な道具。だけどね、怯える顔を見せてほしいものよ」

くくく、と喉の奥を鳴らして母上は笑った。それはもっと、もっと、と部屋を冷たくしていく。

「母上、あれは相模によって大切に護られていたよ」

彼女はにやり、とさらに顔を歪めた。禁術を使っても笑っていられるこの強さ。いや、執念の深さ。

ぼくは何も知らない。母上の闇の理由なんて知らない。ついていくしかないのだ。


「楽しみだわ。わたしの力がすべて元に戻れば、すぐに準備を始めるわよ」


今度は高らかに笑い声が響いた。

ああ、きっとあの女は一瞬で殺されてしまうのだろう。


ぼくは、おそらくあの澄んだ瞳の女をその瞬間まで見ていられない。

ぼくはどうしてあの時ように冷酷になれないのか。母上の笑い声を聞きながら、突如、自分が意気地なしになった原因を探った。
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