ちょっと待って、流れ星
母は、お母さんは、とても優しい美しい人だったとお父さんは言っていた。


艶やかな長い黒髪と柔らかな眼差しが印象的。そうもお父さんは言った。

そう話すとき、お父さんの眼差しも月明かりのように柔らかい。


写真は無いの。

そんなお父さんを見ながら、いつもその言葉が喉の奥まであがってきた。

けれど、言えない。


柔らかくも哀しげなお父さんにとてもじゃないけど、そんなこと、言えなかった。


二人は結婚をしていなかったらしく、位牌さえ家には無く、わたしはお父さんの言葉でしか自分の母親を知らない。


もう、星に尋ねるしか、できなかったのだ。

ただ、お父さんから聞いたよく二人で星を見上げたということ、そして、一度だけ、二人で同じ流れ星を見付けたと言う言葉を頼って。


そして、もう一つ。

わたしの名前。

月子。

なんの変哲もない普通の、ちょっぴり古くさい名前。


けれど、お父さんが言ったんだ。

お母さんが、そう名付けたがっていた、と。


由来なんて知らない。

星空と名前。


それでもその二つがわたしとお母さんを繋ぐ唯一のモノだった。


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