ヴァンパイアに、死の花束を
すっと、鼻と鼻がくっつきそうなくらい顔を近づけてきた彼に、わたしの心臓は息が詰まりそうなほどに、速い鼓動を打ち鳴らした。

彼が、わたしの額の傷を見ているのがわかった。

「や…見ない…」

「かわいそうに。ヴァンパイアにつけられた傷は、人間の力じゃ、消えないんだ」

「…ヴァンパイア…?違う…これは事故で…」

わたしの腰まである長い黒髪に、彼が両手を埋めてわたしの顔を挟む。

そしてわたしの前髪を上げると、彼の形のいい唇が、わたしの額の傷に近づいてきた。

こんなに近くで、誰かに傷を見られるなんてすごく恥ずかしいのに、動けない。



………だって、彼の唇は、薔薇の花のように、憂いを含んでいた。



そっと、額の傷に、彼の唇が触れる。

乾いた花が、雨の恵みを受けたように、額から体中に命の水が染みわたっていく。

心地よくて、ほんのり香る薔薇の香りに、わたしは気が遠くなりそうなほど、酔っていた。

彼に触れられても、嫌じゃなかった。

……なんで?



………わたしは、陣野先生が好きなのに。







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