ヴァンパイアに、死の花束を
辺りはすっかり暗闇になっていた。

海にその姿を映すように、月が淡い光を放つ。

港に入って少しのところで、わたしとレイは車を降りた。

港からさきほど泉水が乗って行ったタクシーが出てくるところとすれ違う。

「やっぱり、間違いなく泉水はここね」

ドキドキする。

緊張と不安で胸がいっぱいだ。

穂高……。

穂高に一緒に来てもらえばよかった。

「神音ちゃん、彼女を助けられたら、オレとキスしてくれる?」

「……は!?」

ウィンクするレイを一瞥する。

「何言ってるの?わたしは穂高じゃなきゃ…」

穂高じゃなきゃ嫌って言いそうになって、口をつぐんだ。

レイはニッコリと微笑み、空を仰いだ。

「良かった。元気出たみたいだね。それに、その言葉。穂高が聞いたら泣いて喜ぶよ」

レイ………。

レイは、さりげない。

普段は大げさな身振り手振りなくせに、本心を見せる時だけは、さりげない。

……レイは、わたしを元気づけようとしてくれたんだ。

それに、穂高のこと、ほんとに好きなんだね。

この二人、ほんと不思議な関係。

クスリと笑ったわたしにレイがエスコートするように手を差し伸べた。

「この先で、泉水ちゃんが待ってるよ」


< 121 / 277 >

この作品をシェア

pagetop