ヴァンパイアに、死の花束を
大型の船が一隻と、中型の船が3隻ほど停泊している港の埋め立てられたコンクリートの真ん中に、泉水は一人で立っていた。

辺りは真っ暗で人影もない港の端に大型のトラックを見つけたわたしたちは、その陰に隠れ泉水の様子を窺う。

泉水は漆黒の髪を海風に揺らしながら、静かにただ立っていた。

わたしとレイは声を発しないようにと決めてから泉水のそばまでやってきた。

吸血鬼には、遠くの囁きだって聞こえてしまうから。

一瞬、大きく海を切るような風が泉水に吹き付けた。

風に乱された髪を掻きあげた泉水の3メートルほど前に、停泊していた船の陰から、一人の20歳ほどの男性が現れた。

「…英一」

泉水が小声でそう言ったのが、はっきりと聞き取れた。

英一と呼ばれた男は、茶髪を掻きあげながら、優雅な物腰で少しずつ泉水に近づいていく。

「やぁ、泉水。1年ぶりだね。元気だった?」

柔らかな声で優しく問いかける英一。

泉水は怒りも哀しみも何も感じさせないような表情のない顔で、英一を静かに見つめていた。

「……あなたを殺したら、全てが終わると思ってた。英二とのつながりが、終わることを、恐れてた。でも……馬鹿だったね」

泉水の、低い、感情の全てを詰め込んだような鈍い声。




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