ヴァンパイアに、死の花束を
ガァァァァアアアンと鳴り響く銃声。

腕を抑えられながら、思わず下を向いたわたしの耳に、思いがけない声が聴こえた。

「吸血鬼が銃なんて、ちょっと卑怯だと思うんだけどな。『鬼』に金棒みたいで、さ」

「ほ……穂高!!」

暗闇に、不敵に笑う穂高のバイオレットの瞳。

泉水は撃たれてはいなかった。

シオは銃を持っていた右手の甲に刺さっている黒の薔薇を苦しげに抜き取った。

銃は地面を回りながら、英一の傍でコトリ、と止まる。

「ヴァ…ヴァンパイア…!」

吸血鬼たちが畏怖と驚愕の瞳で、パーカ-のポケットに両手を突っ込んでいる穂高を見つめる。

その穂高の後ろから、明るい調子のレイの声。

「神音ちゃん、ご所望の穂高くん、呼んどいてあげたよ」

銀髪を風になびかせながら、わたしに手を振る。

レイの能天気な顔に、わたしはまた頭を抱えたくなった。

「レイ…笑ってないで早く助けなさいよ!」

「はい、はーい」

レイが羽交い絞めにされてるわたしに向かって歩き出す。

その時、シオが穂高に向かって手刀を振り下ろした。

「穂高!!」

穂高はポケットに手を入れたまま、塀を飛び越えるほどの跳躍力で飛び上り、シオの顎に蹴りを入れる。

「…う…ぐぁっ……!」

「悪いけどオレ、『吸血鬼』には負けたくないんだ」

「出たね、穂高の負けず嫌い」

レイがふざけた様子で口笛を吹いたかと思うと、一瞬でわたしを羽交い絞めにしている吸血鬼2人の頭を後ろから掴んだ。

「………な!」

「泉水ちゃんくらいのスピードだったら、『ヴァンパイア』にはわけないよ。悪いね、オレ、女の子傷つける奴、大っ嫌いなの」








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