ヴァンパイアに、死の花束を
「……んっ」

吸血鬼の耳が、海のさざ波の音を全て拾い出すように、わたしの耳の奥にこだまする。

波の音と、穂高がわたしの舌を吸いだす音が、気持ちよくて。

「……あ……っ…」

体中の細胞が痺れて、穂高のキスを欲していた。

穂高の荒い息遣いも、わたしの長い髪に埋め込まれた彼の手も、全てが愛おしかった。



………こんなに穂高が好きなのに。



あなたに「好き」って言えない自分が、切なくて、もどかしくて。




キスの間中ずっと、打ち寄せる波のように、涙を流し続けた。





ごめんね、穂高。




―――――――わたしは、『鬼』なのかもしれない。




「愛してる、神音」




囁いた穂高の声をわたしはキスを返すことで、ごまかした。



「……あ…神音……」


強く押し付けられるわたしの唇に、穂高が快感で体を震わす。


悩ましげに、動く舌。


……穂高、こんなにもあなたが好きなのに。



――――――「愛してる」って、あなたに言えない………………!




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