ヴァンパイアに、死の花束を
「…そうか」

穂高は諦めたように呟いた。

……ごめん、穂高………。

ガサリ、と外で何かを置く音がした。

「神音。何かあったらいつでも呼んでくれ。夜中でも、1日何度でも、駆けつけるから」

「………ほ…だか……」

穂高のスニーカーが家の庭を出ていく音がする。

わたしはそのままドアに背中を滑らせるように、へたりこんだ。

「……ごめん…なさい…穂高…!」

穂高の靴音がしなくなって、朝よりも小ぶりになった雨の音に耳を澄ませていた。

雨の音を聞くと、先生を思い出す。

一千年前から変わることなく降り続けている雨が、先生を連れてくるみたいに。

立ちあがって、穂高が置いて行ったものが気になり、ドアを開けた。

玄関ポーチに、むせ返るような薔薇の匂いがした。

真っ赤な薔薇の花束をそっと持ち上げる。

「こんなにいっぱい……」

ドアを閉め、2階に上がろうとした瞬間、違う色の薔薇が目に入った。

真っ赤な薔薇の花束の端っこに、枯れてしまっている白い薔薇が一輪。

「…これ…一輪だけ、枯れてる……?」

枯れた白薔薇に触れて、わたしはその意味を理解し、雷に打たれたように座り込んだ。

薔薇が大好きなわたしにはわかった。

「………だめだよ……穂高……!」

……だめだよ……わたしなんか…………穂高…………!!



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