ヴァンパイアに、死の花束を
レイの能天気な声に、頭を抱え、電話をしたことを後悔しそうになった。

でも、非常事態だし、やむを得ない。

「デートなんてしてる場合じゃないの!急いで調べて欲しいことがあるの。市立病院の内科医の園田芳樹先生と精神科に入院中の国枝沙耶。この二人にどんな関係があるのか。陣野先生とのつながり。……そして、吸血鬼かどうか」

一気にまくしたててふっと息をついた。

レイは黙って聞いていたあと、電話の向こうでヒュっと口笛を吹いた。

「3人目の『イヴの欠片』の登場の予感、だね。わかった、急いで調べるよ。神音ちゃんの頼みなら!このことは穂高には?」

『穂高』という名を聞いてズキンと胸が痛んだ。

「…穂高には、まだ言ってない。今日は風邪で学校休んだから」

うしろめたい気持ちでそう言うと、少しの沈黙のあとレイが言った。

「…な~んか、あったね?ま、男女の仲はお天気のように移り変わるものだから、オレはその日その日の女の子との出会いを大切にして毎日が晴れだけど、穂高みたいに一途な奴は、好きな子が泣いてるだけでその日一日が雨になっちゃうんだ。神音ちゃん、君が泣いてばかりいたら、穂高はずっとどしゃぶりの中を歩いているようなものだよ。…オレの言ってること、わかる?」

レイの優しい言葉と、まるでさっきまでわたしが泣いていたのを見ていたようなセリフに、心底驚いた。

瞳は確かに腫れてるけど、電話だからわかるはずもない。

レイは声の調子だけでも女の子の気持ちがわかっちゃうんだ。

レイのおかげで少し気持ちが晴れたような気がして、ふっと息を漏らすように笑った。

「ありがと、レイ」

「キス1回ね」

ブチっと電話を切った。

すぐ調子にのるところがなければ、いい男なのに……!

でも、携帯を握り締めながらもう一度呟いた。

「ありがとね、レイ」



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