ヴァンパイアに、死の花束を

「沙耶さん……？」

沙耶はわたしを抱きしめたまま、耳元で囁くように言う。

「この前は…ごめんなさい。わたし、時々、混乱するの。娘の麻耶を失ってから、ずっと。娘が生きていたら、雪音ちゃんくらいになっていたはずだから……」

１２歳の女の子の母親のような歳には見えない沙耶が、肩を震わせ泣いていた。

雪音は見た目では７、８歳くらいにしか見えないから、そのくらいの年齢だと思っているのだろう。

「沙耶さん、そのことはもういいの。雪音はあなたを恨んだりしてないわ。それより、ここはどこなの？わたし、園田先生にいきなり連れてこられて…先生はいったい何を…？」

沙耶は振り返り鳩時計を見ると、蒼白い顔で眉根を寄せてわたしを見た。

「芳樹は、わたしにあなたを見ているようにと言って出て行ったわ。でも、きっともうすぐ帰ってくる。ここは彼の家よ。彼はわたしが『イヴの欠片』を持っていると知って、ずっとイヴを探していた。彼はきっと、あなたがイヴだと知ってしまったんだわ」

「園田先生はわたしがイヴだと知ったはずよ。胸の…『イヴの欠片』を見たから。その時はタトゥーだとごまかしたけど」

沙耶はそれを聞いて蒼白い顔をさらに曇らせ、わたしの足首の鎖を解こうと必死に動き出した。

「沙耶さん…どういうこと？園田先生は『イヴ』に何をしようとしているの！？」

鎖がぶつかり合う金属音が聴こえてくる。

「芳樹は、『イヴ』を殺すつもりなのかもしれない……。彼はわたしに恐ろしいほどに執着しているの。わたしを吸血鬼にしたのも彼よ。わたしがイヴに取り込まれる運命だと知って、彼はその前にイヴを殺そうとしているのかもしれない……」