ヴァンパイアに、死の花束を
穂高はゆっくりと座り込んでいるわたしの前まで来ると、わたしの頬に触れた。

涙が零れ、開かれた唇から吐息が漏れる。

「…神音…お前……」

眩しいものを見つめるように穂高が、瞳を細め、指でわたしの唇に触れた。

穂高の視線が、わたしの瞳、頬、唇、首筋と徐々に降りていく。

穂高が吐息を漏らしながら、耐えきれないというように唇を開いたその瞬間。

「……ぐ…」

倒れていた園田先生のうめき声で、わたしたちは現実に引き戻された。

「…神音、行こう」

グイとわたしの手を引き、穂高が立ちあがる。

呻き、立ちあがろうとする園田先生を置いて、わたしたちは先生の家をあとにした。



「……はぁ…はぁ…!」

いつのまにか真っ暗闇になっていた空のもとを、わたしたちは無我夢中で走ってきた。

「……穂高……ここ、どこ!?」

「…オレの家だよ」

「…え?」

どこをどう走ってきたかわからないけれど、ここは10階建てほどのシックな雰囲気のマンションだった。

ズンズンと何も言わずに入っていく穂高に手を引かれて、マンションの玄関へと入っていく。

無言でオートロックを開け、エレベーターに乗る穂高。



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