ヴァンパイアに、死の花束を
「…悪いが、イヴは一千年も前から、私のものと決まっている」

どこまで掘っても冷たく深い氷に閉ざされた氷河のように、冷徹な瞳。

どうして?

いつも教室では、こんなに冷たい表情はしないのに。

少し冷たいかなって思っても、心の底から怖い、なんて思うことはなかった。

「……先生…?」

大好きな先生の顔が、少し、恐ろしかった。

「…ぐ…カヅキ…か…イヴは、お前だけの女神では、ない……!」

「違う。私のものだ」

先生は、倒れた男を見向きもせずにわたしに向き直ると、

冷たい氷のような唇から、ヴァンパイアの牙を突き出した。

「イヴ…君に、私たちの再会を祝って、『キスの花束』を贈ろう」

冷たい視線に、体が動かない。

「………ん……!」

強引に押し被せられた先生の唇は、抗うことができないくらい冷たくて。

体中が凍ってしまうかと思った。

直後、キスをするわたしたちに襲いかかってきた男の首を先生が鋭い手刀で、切り裂いた。

舞い散る赤い血の花びらの中、「キスの花束」をわたしに贈り続ける先生の甘い、甘い舌。



「…ハ…ぁ……せ…んせ…い…」



……先生のこと、好きだったのに……。



飛び跳ねるほどに嬉しいはずだったわたしと先生のキスは、




『死』の味がした―――――――。










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