ヴァンパイアに、死の花束を
「神音!血の波動が強すぎる!!みんな死ぬぞ……!」

穂高の鬼気迫る叫びとともに、車のドアが開く。

頭を抱えるわたしの腕を引き寄せる力強い腕に、人形のようにカクリと体を任せた。

くちゅ、と音をたてて“冷たい異物”が唇を通して喉に落ちていく。

「………っん」

穂高の唇から落ちてくる血は、逆流し沸騰したわたしの血を冷却するように、冷たくわたしの体に触れながら流れていく。

それは、穂高の唇の中で冷気のように冷たく研ぎ澄まされた彼の血液だった。

……穂高は、血液の温度さえ変化させ、癒しの力に変えてしまうんだ。

そう思った瞬間、彼の唇はわたしの唇を離れ、一瞬宙を仰ぎ、華が手折られるように落ちていった。

「……穂高っ!」

彼の落ちた先に、雅の赤い着物が蝶のように開く。

雅はそのまま座り込み、ひざまくらするように穂高を寝かせた。

「莫迦ね。あの波動を直接キスで受けるなんて。見てごらんなさい、吸血鬼なんてひとたまりもないというのに」

見ると、吸血鬼と思われる5人の男たちが、頭を抱えたまま身動き一つせずうずくまっていた。

「これ……わたし…が?」

「恐ろしい子ね」

バイオレットの瞳の異様な光に、殺気を感じ、ゾクリと体の芯が震える。

彼女の周りに、いつの間にか、紅い蝶がひらひらと数十匹舞っていた。



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