ヴァンパイアに、死の花束を
その時、不思議な感覚に襲われた。

わたしの体を包み込む、薔薇の香り。

ふと見上げた空の上、いや、屋根の上に。

漆黒の髪を肩まで艶やかに落としている“鬼”がいた。

三日月を背に佇むその姿は、はるか一千年の昔の鬼が月をはべらせてきたかのように。

妖しい深紅の瞳が、月と共鳴していた。

「…陣野……先生……」

トンと浮かび上がった肢体が、薔薇の花束を夜の闇に舞い散らせる。

落ちていく雪音の体に降り積もるように薔薇が舞い落ち、それを陣野先生が追走するようにスピードを上げて落ちていく。

動かない体に鞭を打つように、わたしはバルコニーの柵に手をかけ、柵の間から下を見下ろした。

先に落ちていく雪音の腕を空中で掴んだ先生は、雪音を抱き上げ、そのまま地面へと吸い込まれていった。

「…雪音!!陣野先生!!!」

ストンと体重を感じさせない着地で、先生は雪音を抱いたまま地面に降り立った。

バルコニーを見上げる陣野先生と目が合う。

冷たい氷の華のような瞳が、わたしだけを真っ直ぐに、見つめていた。

「…イヴ…お前を…殺す」

「…ふっ…ぐ…!」

激しく絞めあげられる首。

園田先生がわたしにのしかかり、両手で首を絞める。

……園田先生…本気だ。

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