ヴァンパイアに、死の花束を
両手を広げて、わたしの下で待つ陣野先生。

先生の瞳は、落ち着いていた。

その落ち着いた瞳に、なぜかふと、叩きつけられるイメージが吹きとんだ。

先生の広い腕が、わたしを呼んでいる。

『イヴ……ここに、来い』……と。

ドサリ、と全身が衝撃で揺れて撥ねあがる。

その衝撃を吸収するように、グイと引き寄せて力強く抱きしめる腕。

全身が湯気を上げたようにガタガタと震え、その腕にすがりたい衝動に駆られた。

「神音、私の腕の中は、怖いか?」

陣野先生の深紅の瞳がわたしを見下ろし、冷たく光った。

……怖い?

ううん、先生が怖いんじゃ、ない。

先生はきっと、どんな恐怖にも打ち勝つ人だ。

その腕の中は、たとえ地獄の底にいても、わたしを安心させる。

いつも地獄をまとっている先生の境遇は恐ろしくても、先生の腕の中だけは、浅瀬の小舟のように、凪いでいる。

「…あ………麻耶…薔薇……ああっ!…芳樹!!!」

突如、沙耶の悲鳴のような声が陣野先生の後ろで響いた。

その瞬間、レイもわたしたちの近くに着地し、足を押さえ顔を歪ませたが、沙耶の異変に眉を寄せすぐに立ち上がった。

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