ヴァンパイアに、死の花束を
恋は麻薬。

吸血鬼の血が、麻薬のように全身に駆け巡って、わたしを支配している。




グラリ、と湯気に濡れた視界が揺れた。

ガチャンと音をたててシャワーホースが床に落ちる。

ぼーっとした頭を押さえて壁に手をついた。

「…また、貧血だ」

陣野先生の血を吸ってから少しおさまっていたのに、とうなだれる。

でも吸血鬼を気絶させるほどの“血の波動”を発した時、自分の体が尋常ではないエネルギーを放出したのは感じていた。

吸血鬼のエネルギーは“血”なんだ、と今さらながらに実感する。

シャワーを止め、バスタオルを体に巻き、鏡を凝視する。

どこからどう見たって普通の女の子のわたしが、鏡の中にいた。

吸血鬼の一族は、こんなわたしのどこを恐れているというのだろう?

ふっと苦笑を漏らした瞬間。

ガチャリと開いた浴室のドア。

「…雪音?」

振り返ったそこに、雪音ではない少女が――――立っていた。





< 222 / 277 >

この作品をシェア

pagetop