ヴァンパイアに、死の花束を
綺羅の絶望の表情を最後に見て、ほんの少し瞬きした一瞬だったと思う。

飛竜の断末魔の叫びのような激しい悲鳴が聞こえ、目を見開いた時には、彼はナイフを持っていた手を空高く突き上げ震わせていた。

ナイフが地に落ちると同時に、ガラスが割れるような音が飛竜の足元で響いた。

飛竜はナイフを持っていた腕からじっとりと出血していた。

押さえる者が何もなくなった綺羅は彼から離れると、その場にうつ伏せに倒れ込んだ。

「き…綺羅!!」

綺羅に駆け寄ろうとするわたしをシオが未だに押さえつけて離さない。

「離して!!シオ!!綺羅のところに行かせて―――!!」

その時、飛竜は出血する腕を片手で押さえながらわたしたちに背を向けると、そのまま神社から遠ざかるように走り出した。

それを見たからだろう。

シオはわたしを押さえる手を離し、レイに向かって走り出した。

わたしも倒れている二人のもとへ走りだす。

呪縛が解けて一瞬倒れ込んだレイは苦しげに立ち上がると、倒れている綺羅のもとへ駆け寄った。

彼は綺羅を両腕で抱き上げ蒼ざめた顔で彼女の名を呼んだ。

「…綺羅!!」

「…レ…イ」

蒼白になった顔でレイを見上げ、微笑む綺羅。

「レイ…助けて…くれたの?」

「いや…オレじゃ――」

何かを言いかけたレイの唇を塞ぐように、綺羅はその青白くなった唇を重ねた。

………綺羅……。

大粒の雨の降る中、唇を重ねる吸血鬼とヴァンパイアをわたしとシオは身動きもできずに見つめていた。


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