ヴァンパイアに、死の花束を
ふっと力が急速に抜けたように唇を離し、綺羅はレイに身を委ねる様に体を沈ませた。

「…綺…羅?」

意識を失ったらしい綺羅の息はとても荒い。

「レイ!!綺羅、大丈夫なの!?」

レイは綺羅を抱きしめながら、彼女の首筋を凝視し、悔しげに瞳を細めた。

「…毒、ですね」

………毒………!?

わたしの後ろに立つシオの冷静な声がした。

綺羅の首筋にはうっすらと細い切り傷ができていて、血が滲んでいた。

「飛竜の見えない波動の毒が、先ほどの一瞬の交錯で計らずも女の首をかすったのでしょう」

パンッと鋭い音が雨の神社にこだました。

同時に、ヒリヒリと痛むわたしの手のひら。

「なぜ、そんなに冷静でいられるの!?綺羅が殺されていい理由なんて、ないわ!!」

思わずシオに平手打ちをしてしまった自分の手がとても痛かった。

でも、わたしのために、綺羅がこんな仕打ちを受けていい理由は、ないんだ。

シオは、手の甲で叩かれた頬に触れ、なんの感情もない顔で言った。

「なんと言われても、イヴ様以上に護るべき存在は…ありません」

その時、レイは綺羅を両腕で抱き上げ立ち上がった。

「……神音ちゃん、綺羅を連れて『ガイア』に戻るよ。あそこには吸血鬼専門の医者もいる。解毒剤くらい出してくれるだろう」

吸血鬼専門の医者……。

レイの言っているガイアは街の中心部に存在する製薬会社『ガイア』のことだろうと、すぐに察した。

でも、雅の話では、ガイアはイヴとそれに従う者の抹殺を指示したという。

そんなところに戻ったらレイと綺羅は……!

「レイ…そんなの危険だわ!!」

レイは綺羅を静かに見つめながら、いつもの低く艶っぽい声を出した。

「こんなに泣き虫の綺羅がオレのために危険を冒したんだ。危険でも、オレは行くよ」

レイはニッコリと微笑み、踵を返すと、雨にびっしょりと濡れた銀髪を揺らしながら鳥居を潜っていく。

「…レイ!!必ず……必ず戻ってきて――――――!!」

レイは振り返らずに手をひらひらと振る。

「あいよ、神音ちゃん」――――レイの背中がそう言っているように見えた。

< 249 / 277 >

この作品をシェア

pagetop