ヴァンパイアに、死の花束を
ザーザーと雨が降り続ける。

シオはわたしに前を歩けというように、スっと手を神社の方へ向って差し出した。

ぶんぶんと首を横に振り、立ち尽くすわたしをシオが諌めるように声を発した。

「…神音様」

なおも嫌というように首を振るわたしにシオは諦めたのか、ため息を一つつくとゆっくりと神社に向かって歩き出した。

その瞬間、冷たい雨がわたしを包んだ気がした。

……わかってた、“彼”がここにいたことは……。

背中から抱きしめられたわたしは、わたしの長い髪に彼がキスするのを感じていた。

シオが気配を察知し振り返る。

でも、わたしを抱きしめる人物を一目見ると、瞳を細め一礼した。

「イヴは私が送り届けよう。行ってくれ、シオ」

その人物の声に、シオは従順に再び一礼すると、アジトの入り口へ向かって歩き去った。

少し小降りになってきた雨の音がわたしたちの心を揺さぶるように、鳴っていた。

「…陣野先生……どうして綺羅を助けてくれたの?」

顔も見えない相手に、前を見たまま言う。

飛竜という男の腕に刺さった水で作られた刃。

その刃は一瞬で見ることはできなかったけど、落ちた瞬間の割れるような音は、穂高が襲われた時に、一度聞いている。

そして陣野先生得意の水の刃を作り出すには、充分なほどの雨も降っていた。

綺羅を救ったのは“彼”だ、とわたしはその時気づいていた。

「私が救いたかったのは、彼女じゃない。君だよ、神音」

そして同時に、わたしは思い出してしまった。

6年前、わたしの額に傷をつけた記憶の断片を………。




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