ヴァンパイアに、死の花束を
その沈黙は一瞬だったけど、とても長く感じられた。

先生もあの6年前の雪をこの雨に重ねているのかもしれない、そう思った。

「君のママは自殺だったが、君を傷つけたのは……私だ」

ひどくはっきりと、なんの抑揚もない声音で先生は言った。

……ママが……自殺………!?

振り返って見た先生は、血ぬられたような深紅の瞳を向けていた。

……同じだ。

あの千聖の像と同じ。

先生の顔は、慈悲深いようにも、怒っているようにも見えた。

…この神聖な場所のせいなの?

先生の顔は、『神』のようにも、『鬼』のようにも感じられて、わたしの心を惑わせた。

「…ママが、どうして…自殺…を?」

ママには自殺の節があったとの噂は確かにあった。

でも、ママには自殺する理由なんかないはずだった。

わたしはともかく、まだ6歳だった雪音を置いて逝くなんてこと、そんなこと考えられない。

先生は瞳を伏せるように顔を背けると、神社へ向かって歩き出した。

「…せ、先生!!」

歩き続ける先生を追っていくわたしに、先生は振り返らずに応えた。

「これ以上君が思い出すべきことは、何もない。シオの元へ戻りなさい」

「先生!!」

先生の歩いていく先に、先ほどのシオが封印した扉の場所があった。

シオは、雨の中、扉のある場所の横で冷たい瞳を光らせ、こちらを見ていた。

先生がわたしの腕を掴み、シオの前へと突き出す。

「シオ…神音をここから絶対に出すな。…私が竜華雅の首をここへ持ち帰るまでは、な」

…………先生……………!!!

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