ヴァンパイアに、死の花束を
「このごろの志雄は、前にもまして自分の命を顧(かえり)みません。それは神音様が現れたからかもしれません。彼にとって、この世で最も護るべき存在であるあなた様が…」

その時、ふすまの外に人の気配を感じた。

気配は感じるけれど、深紅の瞳でその姿を見ることはできなかった。

この瞳の透視は、いつもできるとは限らないのだろうかと不思議に思った。

そういえば起きがけに“視る”ことができた外の様子も今は視ることができない。

「静流。少ししゃべりすぎだ。うるさくて寝ていられない」

ふすまを開けもせずに、シオは苛立たしげに言った。

……そうか、シオはどんな小さな音も拾ってしまうんだっけ。

じゃあ、今の会話も全部聴こえていたんだ。

「ごめんなさい、志雄。神音様も雪音様もとてもお可愛らしくて。ここには女性は少ないですから、嬉しくてつい話がはずんでしまったのです」

「……ほどほどにしておけ。私はしばらく留守にする」

早足な足音が廊下から聴こえた。

シオはどうやら外へ出ていってしまったようだ。

「…いつもの粛清候補者の調査でしょう。少しでも気になる吸血鬼の調査に余念がないのです。……兄には、自分の人生がないみたいです」

……静流さん……。

なんだか寂しげな静流さんの様子が気にかかった。

「…かわいそうだね」

雪音がぽつりとつぶやいた。

それを見た静流さんは申し訳なさそうに表情を歪めたけど、すぐに何かを思いついたように微笑んだ。

「…そうですわ、神音様、雪音様!お二人にとても似合いそうな着物があるんです。気分転換にぜひお着替えなさってください」



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