ヴァンパイアに、死の花束を
そう感じたからかもしれない。

この人なら大丈夫、思いのままを打ち明けよう、そう思った。

きゅっと唇を結んで、勢いよく顔を上げ、静流さんをまっすぐに見た。

「静流さん、お願いです。わたしをここから出してくれませんか?……このままじゃ、堪らないんです。レイも綺羅も、穂高もこうしてわたしがのんびりしている間に命の危険にさらされているかもしれない。何もできないかもしれないけど、ここにこうしていたくはないんです。…それに陣野先生だって」

言いかけて、唇を噛んだ。

竜華雅を殺すと言った先生の鬼のような瞳が、今も胸に突き刺さっている。

……先生は、本気だ。

本気で“イヴ”のために、雅を殺そうとしている。

静流さんのふっと息を漏らす音が聴こえた。

「…神音様は、とてもお強くて、お優しいですね。一千年前とお変わりになられていないようで、とても嬉しいです」

「一千年前って……なぜそんなこと知っているの?」

「吸血鬼の間に伝わっているただの噂です。この屋敷には一千年前の火月様とイヴ様のご様子を記した古文書も残っていますが、今ではその文字を解読できる吸血鬼はおりません。ですので、単なる伝承に過ぎないのですが…」

………古文書!?

一千年前のことを少しは知ることができるかもと期待してしまう。

でも、静流さんの話の様子だと無理なのだろう。

「神音様、ご希望に添えなくて申し訳ないのですが、ここから神音様がお出になることは兄から頑なに禁じられております。わたくしにはどうして差し上げることもできません」

わたしの顔に少し落胆の色が滲んだのだろう。

静流さんは申し訳なさそうに一礼した。

……でも、何か、何か脱出の方法を考えなくちゃ。

頭を下げたままの静流さんは気づいていないだろう。

だけど、隣に座っている雪音は、わたしの唇をぎゅっと締めた横顔を見て、ハッと表情を変えたようだった。

………脱出するしか、ないんだ……!!



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