ヴァンパイアに、死の花束を
それから、2日がたっていた。

相変わらずゆっくりと流れていく静流さんと雪音との生活。

静流さんはとても親身に世話を焼いてくれて有り難いのだけど、脱出する機会をうかがっているわたしとしては、とても複雑だ。

監禁されているわけではないのだけど、部屋から出て辺りを散策しようとすると必ず静流さんがやってきてやんわりとどこへ行くのかと聞いてくる。

それも昼夜関係なく、だ。

ここから出るにはシオが封印した地上への扉一つしかないのか確かめたいのだけれど、それもままならない。

シオは相変わらず外と中を行ったり来たりで、ほとんどわたしに顔を見せることはなかった。

でもそんな中でも一つ収穫があった。

「あれぇ、またイヴ様じゃないですか?こんなとこうろちょろしてたらまた静流がすっ飛んできますよ」

廊下を歩く時に何度かすれ違ったがっしりとした体格のおしゃべりな男だ。

ニヤニヤとしたいやらしい目つきでわたしの着もの姿を見つめる風馬(ふうま)という男に負けじと声を荒げた。

「ただの散歩よ。ずっと部屋にいたら体がなまるもの。それよりあなたは仕事しないわけ?」

この屋敷の中で、何人かとすれ違ったけど、皆一様にイヴへの敬意の念を表すように深々と一礼する中、この男だけはそんなものは微塵も感じられなかった。

「仕事ねぇ。粛清ってありゃけっこう命がけでね。おいしい人間の血をたっぷり毎日吸いまくってる元気満々の吸血鬼と闘うのはちょ~っと骨が折れるわけよ。なんで、こっちも“特殊能力”を強く発揮させてくれるようなおいしい血を飲んでから出動ってわけだ」

風馬のこの言葉は、わたしにとって収穫だった。

…確かに今のわたしは血に飢えている。

国枝沙耶の一件で陣野先生の血を吸血して以来、一度も吸血していないのだ。

特殊能力を発揮するには、“飢え”は大敵らしい。

――――――脱出するには血が必要だ、とわたしは悟った。

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