ヴァンパイアに、死の花束を
ドクン…ドクン…ドクン……。

着物を脱がされる衣ずれの音が聴こえる。

静流さんの優しい笑顔が浮かんで、胸が締め付けられた。

……静流さんを…助けたい……!!

ふすまを思い切りよく開け、大股で部屋に踏み込んだ。

うす暗い部屋の中で、重なり合った二人が驚いてこちらを振り向く。

押し倒され風馬に乗り上げられた形の静流さんは、白の着物を乱され、抵抗するように腕を風馬に押し付けていた。

「…なんだよ、イヴ“様”じゃないか?いくらイヴ様でも、男女の寝間にズカズカと入ってくるのは、いかがなものですかねぇ?」

風馬がニタニタと笑う姿を目の端に映しながら、わたしは別のものに目を奪われていた。

………静流さんの左腕に………『イヴの欠片』………!!!

着物の袖が捲れて露わになっている静流さんの白い腕に、赤みを帯びた薔薇の形のアザがくっきりと見えていた。

「…静流さん……あなた……!!」

その時、背筋の凍るような気配が背後でして、わたしは息を飲みながら振り返った。

ポタリ……と、廊下に滴る深紅の液体。

それはスラリとした黒ずくめの男の体からとめどなく流れ落ちてくる。

「……神音様…“お散歩”…です…か…?」

定まらない視点で、シオが皮肉気に笑う。

「…シ…オ…どうしたの!?まさか粛清で……!」

首から大量の血を流し、シオはその場に崩れ落ちた。

うつぶせに倒れたシオに駆け寄ろうとするやいなや、蒼ざめた顔の静流さんが一歩速くシオに駆け寄った。

「……志雄…志雄―――――――――――!!!」




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