ヴァンパイアに、死の花束を
倒れた風馬の大きな体躯の後ろに、深紅の瞳を冷たく光らせているシオが立っていた。

「……シ……オ……!!」

どうしてここに、と言いかけて、彼の持っている長くて鋭い光を放つ長刀に目を奪われた。

シオはそれを真っ直ぐに静流さんに突き付けるように腕を伸ばした。

数メートル先で、彼女が瞳を細めて哀しげにまつ毛を落とした。

「静流。裏切りも例外なく粛清の対象だ。おしゃべりなお前が神音様を前にずいぶんと静かだったからな。恐らく、筆談でもしていたのだろう?…最期に、申し開きすることは?」

シオはわたしたちの脱出の計画に気づいていて、出発したふりをしてこの30分の間に屋敷に戻り、奥に潜んでいたんだと悟った。

有無を言わせぬシオの威圧感漂う瞳に、彼女は観念したように肩を落とした。

「…ありません。好きなように御処分なさってください、志雄」

見つめあう二人の視線が、無言の声を発している…そんな気がした。

兄と妹。

それだけじゃない、何か。

常に死を感じている二人だから通じ合える見えない糸が、今、二人の間にピンと張りつめているのかもしれない。

その時、わたしの深紅の瞳が霧の晴れていく空のように、一気に覚醒した。

さっき、風馬の腕を噛んだ時、咄嗟に血を吸い上げていたことを思い出した。

……血が、わたしの吸血鬼の血が、覚醒する………!!

……ああ、シオ、やっぱりあなたは………!!

「シオ……!お願い、静流さんに本当の気持ちを伝えてあげて!!そうすれば彼女はイヴの欠片の呪縛から解き放たれる……!!」



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