ヴァンパイアに、死の花束を
「何をおっしゃっているんですか?私は嘘などついておりません。神音様」

この後に及んでなお、嘘をつきとおそうとするシオに苛立ち、わたしは早足でシオに近づいた。

静流さんに向けたままのシオの長刀の刃の部分をぐっと素手で掴む。

「……ぐっ」

痛みで思わず声が漏れる。

血が指の腹と手のひらから刃を伝ってシオの柄を掴んでいる手へと流れていく。

「神音様…!何をなさっているのです!?お離しください!!」

「…神音様…!なんてことを…!」

二人が同時に驚きの声を上げる中、わたしは刀から手を離すと、シオの目の前に血の滴る手のひらを掲げた。

「……飲みなさい。シオ。このままじゃ、死んでしまうわ」

長い前髪の奥で、目を見開いたシオは、すぐにわたしの手から目を逸らし呟いた。

「…私は飢えてはおりません、神音様。粛清者の血で足りていると言ったはずですが?」

目を逸らしたままのシオと階段の上で不安げに見守っている静流さんの二人を交互に見て、切り札になるだろう言葉を発した。

「シオ、あなたがどんな音も拾うなら、わたしはどんな小さな体調の変化だってその肌の細胞の様子から見えてしまうの。あなた…もう本当に長いこと、誰の血も吸ってない。とても、苦しそうだわ」

「…志雄…まさか…なぜそんなこと…!?」

シオは、刀をスッと下に降ろし、わたしの顔を見て微かに、微笑んだ。

「さすがは千年の時を生きる“イヴ様”だ。嘘もお見通しというわけですか」

「…静流さんの血を吸えないなら、誰の血も吸う気はなかった。彼女があなたに吸血してもらえない苦しみを自分が吸血しないことで、共に味わおうと思った。彼女が死ぬなら……自分も死のうと思った……そうよね?シオ」

シオは自分の黒のシャツの袖を破ると、わたしの手の傷に巻きつける。

「…シオ?」









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