ヴァンパイアに、死の花束を
「それと…静流に冷たい態度を取り続けたのは、静流に私を忘れさせるためです。私は、いつか自分が静流を殺してしまうんじゃないかと、怖かった。吸血に溺れた吸血鬼たちを粛清し続けた私には、充分すぎるほどわかっていた。吸血鬼は愛する者の血に、溺れてしまうものなのです」

……“愛する者の血に…溺れる”……。

その最後の言葉をシオは階段の上で口を押さえて泣いている静流さんに向かって囁いた。

静かな声音で話すシオの声に偽りはなかった。

静流さんは、その言葉に顔をくしゃくしゃにして瞳を細めた。

その瞬間、彼女は滑り落ちるように階段を駆け降りてきた。




「……っ…志……雄……!!」



「……すまなかった………静流」




階段の2段上に立つ静流さんが、上からシオの首に抱きつく。

静流さんを抱きしめ返すシオの腕は力強かった。

深紅の瞳を閉じたシオの片目から伝ったひとすじの涙をわたしが見逃すはずもなく、この瞬間、なぜかわたしは陣野先生の涙を思い出していた。

鬼のようだったシオが流した涙と、先生の涙。

―――――不思議と、2つが重なり合って見えた。





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