ヴァンパイアに、死の花束を

散る花

屋上の真ん中に一人佇む陣野先生。

いつも結われていた陣野先生の肩まである長髪が、今日は結ばれてはいなく、流れるように風に揺れていた。

切れ長な瞳が、赤く威圧的に光る。

………『吸血鬼』。

陣野先生には、まさに、「鬼」という言葉がふさわしい。

「ここに、江島先生が来たはずだけど?……陣野『先生』」

穂高はわたしを背中に隠しながら、冷たい空気のような声で言った。

「もちろんここにいるよ。穂高『くん』」

そして先生は屋上の端にあるタンクの後ろを見やり皮肉気に笑った。

先生の目配せに応じるように、ゆっくりとうつろな瞳でタンクの後ろから出てくる江島先生。

「……江島先生!!!」

叫んだわたしの声は、先生には届かなかったかもしれない。

江島先生は、何も感じていないような空虚な瞳のままだった。

「冬子……さぁ、こちらへ」

陣野先生は江島先生の名を呼んだ。

その瞬間、江島先生はとても嬉しそうに微笑んだ。

「だめだ。江島先生、陣野のところに行っちゃだめだ!!」

穂高が江島先生に向かって走り出そうとしたその時。

ビシュっという鋭い音が穂高の体を突っ切るように走った。

「………穂高!!!」

「…くっ」

カラン…と落ちた柄のない槍の切っ先だけのような刃。

それは落ちた瞬間、水のようにはじけ飛び、消え去った。

「今日は雨じゃないんでね。水から作れる刃もそんなもんだ。…ラッキーだったね、穂高『くん』」




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