ヴァンパイアに、死の花束を
陣野先生は、体調を崩したという理由で、その日から1週間ほど姿を現さなかった。

わたしは、1週間たって、警察も訪れなくなった『ヴァンパイアのいる保健室』に、花束をもって訪れた。

緊急に代行で呼ばれた保険医のいくぶん太った女性が、保健室から顔を出した。

「…江島先生に手向けの花束?いいわよ、人気の先生だったからすごく多いんだけど、好きなだけ置いていきなさい。あなたの花、とっても綺麗ね」

「ありがとうございます。薔薇はきっと、先生の好きな花だから」

最期に江島先生が持っていた赤いスカーフの模様が薔薇だったことを思い出す。

……隔世遺伝の先生も、きっと無意識に、『吸血鬼』である自分を知っていたのだろう。

――――『赤い薔薇』は、吸血鬼の好きな花だから。

先生、最期に愛しい人に逢えて、幸せだった………?

……せめて、そう思いたい。



「……っ…」



保健室にしゃがみこんで、薔薇を握り締めながら、むせび泣く。





江島先生が遺してくれた『イヴの欠片』は、わたしの胸にちゃんとある。



「……ごめんなさい……先生……ごめんなさいっ…!」



……助けられなくて………先生………ごめんなさい…………。



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