ヴァンパイアに、死の花束を
ふわふわとした屋上の柵の上。

「死に限りなく近い」場所の、ふわふわとした浮遊感の中で。



「……んっ…」



わたしが持っていた一輪の赤い薔薇をわたしの小さな手ごと包み込む、穂高の大きな温かい手。


わたしと穂高は、お互いに片手だけでバランスを取り、まだ生きている「花」とお互いの「命」と、



――――唇の温もりを感じていた。



「……ぁ………ほ…だか……」


「神音……黙って」



この柵から下はきっと、『先生の世界』で、


今、死に近いこのギリギリの場所が、『わたしと穂高』の世界。



だけど、ここから先の冷たい『先生の世界』と、この温かい穂高の舌と唇の温もりは、けっして溶け合うことはない。



きっと、わたしが『入江神音』であり続けるなら―――――――。






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