ヴァンパイアに、死の花束を
「ねぇ、待って。古河さん、待ってよ!」

走りながら追いかけるわたし。

泉水は体育館から校舎への渡り廊下で、振り返らずに立ち止った。

「古河さん、さっきの、どういうこと?」

「どういうこと……って?」

なんの温度もない声に、わたしは少し萎縮する。

「『殺して』って一体どういうつもりなの?……それにわたしを『イヴ』って言った」

少しの沈黙。

泉水は肩から上だけで振り向き、スッと整った眉を少し釣り上げた。

「『イヴの欠片』を見たんでしょう?欠片を持つ者は、イヴの存在を感じることができるの。わたしには、あなたがイヴだって、このアザができた時からわかってた。あなたはわたしの命をその体に取り込むことができる。わたしを……殺すことができる」

『殺す』という響きに、わたしの心臓はキリで突かれたように痛んだ。

「どうして!?なんで殺してなんて……わたし、もう二度と、誰かの命を犠牲にするなんて、嫌なの!!」

泉水は取り乱したわたしをただ、じっと見ていた。

「……渇きが、始まっているんじゃない?もうすぐ、あなたにも吸血する時がやってくる。あなたの、一番好きな人は、ヴァンパイア?」

「……え?」

泉水の表情が、さっきまでとは違い、少し湿った憂いを帯びたように見えた。





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