ヴァンパイアに、死の花束を
「好きな人って……わたしは…」

戸惑うわたしを見て、泉水は長いまつげを伏せると、再びわたしに背を向けた。

「人間を好きになっちゃだめよ。……わたしは、遅かったけど」

……遅……かった?

そのまま、歩き出した泉水を、わたしは引きとめることができなかった。

彼女の瞳は、『死の世界』を見ている。

まっすぐに、少しも後ろを振り返ることもなく。

……先生と、同じ匂いがした。

陣野先生の『死の匂い』………と。



「……神音」

「!?」

振り返ると、体育館を出てきたばかりの様子の穂高がいた。

「穂高……試合は?」

「オレの活躍で圧勝!」

ふざけた調子で答える穂高にわたしは眉を吊り上げた。

「そうじゃなくて!……途中で抜けてきてくれたの?」

「ああ。神音は一人じゃ危なっかしい」

「…なにそれ!?」

怒って拳をふり上げたわたしの腕を、穂高はぎゅっと掴んでわたしに顔を近づけ、言った。

「……『違う』って、何?」

真剣で、怒ったような表情の穂高。

ちょっと怖くて、足が竦む。

「な、なに!?なんのこと…?」


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