ヴァンパイアに、死の花束を
「神音にとって、オレは、『彼氏』じゃない?」

すぐ目の前にある穂高の唇から、彼の息遣いを感じる。

いつもの冷静さを少し欠いたような、昂ぶった呼吸。

「明日美との会話、聞いてたんだ…?」

「聞いてたって人聞きが悪いけど、ヴァンパイアの耳は囁きだって聞きとっちゃうからね。聞こえたんだ。で、答えは?」

穂高……さっきから少しも腕の力を緩めてくれない。

このまま彼に捕らえられてしまう錯覚に陥っちゃうくらいに。

穂高はじっとわたしの瞳の動きを観察するように、瞬きもせず見つめる。

「……穂高」

……好きだよって言ってしまいたかった。

穂高が「キスの花束」をくれたあの日から、穂高のことを考えない日は、なかった。

あなたがヴァンパイアでも、人間でも、愛してるって。

でも、わたしの胸の奥底に、先生の影がちらつく。

穂高となら、温かい温もりの中で「生きて」いけるけど、先生とは生きていけないだろう。

背中に、どす黒い漆黒の翼をもった先生には、冷たい『死』があるだけだ。

でも、それでも、『生』じゃないどこかで先生とつながっていたい。

そんな気持ちがどこかにあるわたしには、穂高への答えが、見つからなかった。





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