ポロポロ泣き出す私に



伊織くんは少し慌てた



「あ、あれ?風羽ちゃん?大丈夫?わぁ~、ごめん、ごめんね?」



嬉しくて感動して泣いてるのに



ワタワタ慌てて謝る伊織くんが面白くて可愛くて



すごく愛しく思えた


このままで いい



理由も訊かず
そう言ってくれた彼の優しさを



離したくないって思った




ゴシゴシ涙を手の甲で拭いて



「ありがとう伊織くん」


もう一度 言った


「ありがとう」



「何もお礼を言う事じゃないよ」



その時だけ


伊織くんは
少し哀しげに笑ったんだけど



私は全然 気がつかない




クローゼットを開けて


「着替え貸したげるね」


Tシャツとハーフパンツを貸してくれた


シャワーを浴びて


買い置きの新しい歯ブラシを出してくれる



大きな彼のTシャツからは
柔軟剤のいい匂いがした




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