空
「泣き虫じゃないっ!」
むきになって私が言うと
ちょうど車の前に着いて
「はいはい。さ、乗って」
そこで繋いだ手が離れて
無性に寂しくなる
助手席に座ってシートベルトをつけると
「今日はどこに帰る?」
伊織くんが
エンジンをかけて訊く
「………伊織くんの家」
いつもの事ながら
恥ずかしい
小さな声で答えると
伊織くんは嬉しそうに笑い
「また、てっちゃんに怒られるさ」
私の顔をのぞき込む
「いいよ。てっちゃんなんか
関係ないもん」
ふぃって そっぽを向く
伊織くんはクスクス笑いながら
車を発進させた