空
伊織くんの言葉が理解できない
茫然と固まった私を
「…………ふっ」て伊織くんは
すごく怖い顔で笑った
「よりによって好きになったのは義理の母親
もちろん茜音はオレの事なんか好きじゃない
その頃はオレ高校生で一緒に暮らしてたんだ
古い木造住宅
親父と茜音は新婚で
真夜中になると聞こえてくるんだ」
ドクン、ドクン
心臓が嫌な音をたてて早くなる
指先が氷のように冷たく
ひざが震えそうだった
伊織くんは楽しくないのに
笑って話した
目は哀しそうなのに
口元だけ笑ってた
「静かな暗い部屋の中
隣の部屋からベッドのきしむ音
オレの事を気にしてたのかな
こらえきれずに漏れたような
茜音の甘い声」
嫌だ…………
聞きたくない………
聞きたくない