お父さんは



茜音さんの心



伊織くんの心



全てわかってたんだ



「空羽ちゃん」



茜音さんはまっすぐ私を見据えて




「私はあの人の最期の言葉に従おうと思ってる」



………あぁ、終わりだ



本当に終わりだ



深い哀しみが胸を覆うと




「だから、あとは、伊織とあなた次第だから」



伊織くんと私 次第?



茜音さんは何を言って……




「伊織くんは茜音さんを愛し…」



私の言葉をさえぎるように




「伊織の心はまだ私の元に帰って来ていない」




茜音さんは 何か不安を押し殺すように



強い視線を私にぶつけた




「伊織の心はまだあなたにある」



「な、なにを言って……」



私が戸惑うと



「私の気持ちは話したわ

これで私も伊織もあなたもフェアだと思うの」



……フェアも なにも…



すっかり混乱して



わけが わからない



「伊織が何を選ぶのか

あなたが何を選ぶのか

選択の先に私の未来がある」



茜音さんは それだけ言って



伝票を掴み 店をあとにした



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