空
ズキッ………
伊織くんの言葉に胸が痛くなったけど
「伊織くんに無くても
私にはある…………」
「悪いけど無理だよ
こんな時間に行けない」
「なんで?」
「なんでって…………」
伊織くんは戸惑った声を出して
「こんな時間に女の子の家に行けないよ」
「別れたとたんに他人行儀になるんだね」
私の言葉にタクシーの運転手さんが興味深そうにルームミラーでこっちを見た
「別れたって言っても
伊織くんが一方的に言っただけじゃない」
伊織くんを にらんで
「伊織くんズルいよ
自分のことだけ話して私の話は聞いてくれないの?」
「オレに恨み言でも?」
「そうだよ。恨み言、あんなヒドイ別れ方したんだから」
ちょうどタクシーがマンションの前に着く
「伊織くんには私の恨み言を聞く義務がある」
伊織くんは苦笑いをして
「わかったよ。
いくらでも聞こう」
二人でタクシーを降りた