「私、伊織くんが好きだよ」



伊織くんは驚いたように目を見開いたあと



何か言おうと口を開いたけど



私からスッと目を剃らして口元に片手を当てた




「伊織くんの事情はわかってる。だけど、それでも好きなの。

別れてからも、ずっと伊織くんのこと…………」



私が最後まで言い終える前に



「……何…言ってんだよ」



伊織くんは立ち上がり



「帰るよ」



「待ってよ!何で逃げるの?」



私に背を向けた伊織くんの腕を掴んで



「逃げないで聞いてよ」



「オレは…君を騙して傷つけたんだよ?

風羽ちゃんバカじゃないの?
そんな男、憎んで嫌いになるのが普通だよ」



伊織くんは眉をしかめて
私を冷たく見下ろした



「バカでも何でも好きなんだよ

私、伊織くんが嘘ついてたって思えないんだ

伊織くんの手は…いつだって優しかった

それが嘘だなんて思えない…」



伊織くんの腕を強く握りしめて額をつけた



「嘘だなんて…思えない…」



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