「うん」



伊織くんの うなずく声がして





ゆっくりと伊織くんは私に近づく気配がした




「風羽ちゃん。
ありがとう」



振り返ると伊織くんは右手を差し出して



私はその手をじっと見つめた



優しい手


温かい手


傷を癒してくれた手


大好きな手




私も右手を差し出して



握手をした



「風羽ちゃんと出逢って
恋をして、人を愛する意味を教えてもらった

愛する人を大切にすること

風羽ちゃんが教えてくれたから

茜音と伊音と向き合う強さ

風羽ちゃんが全部オレにくれた…………」



伊織くんは私の手を強く握りしめて涙を流した



どこまでもズルい人


私より先に泣くなんて



でも 絶対 私は泣かないよ



涙を我慢し過ぎて頭ガンガン痛くなってきたけど



繋いだ手が ぼやけて見えるけど



弱虫な伊織くんを送り出すために



私は泣かないんだ




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